大道56/小説「新・人間革命」


【「聖教新聞」 2015年(平成27年) 4月16日(木)より転載】

 

【大道56】

 東北の歌「青葉の誓い」を完成させた二日後の八月八日、創価文化会館内の広宣会館で県長会議が行われた。山本伸一は、会場に姿を現し、席に着くと、前列にいた北陸婦人部の代表に視線を注ぎながら言った。
 「『北陸の歌』を作詞しましたよ!
 歌詞には、コスモスの花のことも入っています。覚えているかな。私は、あの時の、皆さんの真心が忘れられないんです」
 前日、信濃町創価婦人会館(後の信濃文化会館)で、伸一が出席して婦人部代表との懇談会が行われた。その折、富山県婦人部長の滝村智紗は、意を決して手をあげ、伸一に訴えた。
 「先生! 北陸にも、歌を作っていただけないでしょうか」
 「自分たちで作ってみましたか」
 「はい……。でも、皆が心から納得できる歌ではないんです。先生に作っていただくことで、北陸に魂を吹き込みたいんです」
 「皆さんで歌を作ることも大事ですよ」
 この時、別の方面の婦人部が活動の模様を報告し始め、北陸の方面歌についての話は、これで終わった。しかし、伸一は、懇談会終了後、「北陸の歌」の作詞に取りかかり、完成させたのである。
 「コスモスの花のこと」と聞いて、北陸婦人部の顔に光が差した。
 前年の夏、彼女たちは、東京から来た婦人部の幹部に、立山連峰の麓に咲いていたコスモスにススキをあしらった花束を、山本会長に届けてもらった。“激闘を重ねる会長が、コスモスの花を見ることによって、束の間の安らぎを得られれば……”との思いからであった。それは、決して、華やかな花束ではなかったが、立山連峰の風情を感じさせた。
 伸一は、その花束を宝前に供え、花を摘んでくれた北陸の友の顔を思い描きながら、唱題した。そして、彼女たちの健気で清らかな心を、何かの折に讃えたいと思った。
 真心と真心が響き合う創価の世界には、美しき精神の結合がある。


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